自然とともに暮らす利島では、冬が終わり春になると、山菜の季節が始まります。
「下処理が大変だ」と言いつつも、山から持ち帰った山菜を台所で料理する姿がなんだか嬉しそう。
今回は、そんな利島の春の風物詩でもある「山菜」と、島の人々の暮らしについてご紹介します。
散歩しているだけでも道端に山菜がある利島。ただ、島の人が山菜を採りに行く場所は、それぞれ決まっています。
多くの場合、ご自身やご家族が管理している「椿畑」などが毎年の収穫ポイントになっています。利島といえば広大な椿林が有名ですが、椿の木陰は半日陰で、山菜が育つのに絶好の環境です。
一方で、私有地以外の場所となると……早いもの勝ちなので、採りやすいところは既に摘まれているなんてことも。
そんな利島の食卓で、最も身近で欠かせない山菜といえば、やっぱり「アシタバ(明日葉)」です。
「今日摘んでも、明日にはまた新しい葉が出る」と言われるほど生命力が強いアシタバは、島民のソウルフード。島の家庭では、さまざまな調理法で味わわれています。
その中でもよく見る食べ方をご紹介します。
【お浸し】
サッと茹でて出汁や醤油で食べます。シンプルだからこそアシタバ特有の爽やかな風味が際立ちます。島の方の健康法として、ゆで汁を飲むという方もいらっしゃいます。
【天ぷら】
時期になると民宿や飲食店で多く出されるのが、サクサクの衣に包まれたアシタバの天ぷら。島では衣に塩味がついていることも。酒のつまみにぴったりです。
【ツナマヨ和え】
茹でたアシタバを1センチぐらいに切って、水を絞り、ツナとマヨネーズで和える。子供でも食べやすいので、島の定番おかずです。ほのかな苦味とツナマヨのコクが相性抜群です。

(左:アシタバごはん。 右:伊勢海老と明日葉のすまし汁。 中央:アシタバのゆで汁)
ちなみにアシタバは、採る時期や部位によって味も食感も変わります。
春先に出てくるやわらかい新芽は苦味が少なく、爽やかな香りを楽しむことができます。少し育った茎のシャキシャキとした食感もたまりません。固くなり始めたら肉と炒めても美味しくたべられます。
私は、味をつけて煮込んだ明日葉を炊き立てのご飯に混ぜた、明日葉の混ぜ込みご飯が大好きです。
アシタバのほかにも、利島では「シドケ(モミジガサ)」や「シオデ」といった山菜を採ることができます。
「シドケ」は、山菜好きにはたまらない強い香りと独特のほろ苦さがあり、少し好き嫌いが分かれるツウな味。そのクセになる味わいがお酒のつまみやご飯のお供にピッタリで、お浸しや和え物にしたり、サッと油で炒めたりして楽しむファンも多い一品です。
一方の「シオデ」は、クセが少なくとても食べやすい山菜です。独特の歯ごたえとシャキッとした食感を楽しむのが一般的。山のアスパラガスとも呼ばれ、茹でてマヨネーズをつけたり、和え物にしたりして親しまれています。
春の短い期間にだけ出会えるこれらの山菜は、食卓に一品加わるだけで「あぁ、今年も春が来たんだなぁ」と豊かな気持ちにさせてくれます。

島外にも出荷している春の山菜「シドケ」
アシタバやシドケ、シオデだけでなく、利島の豊かな山にはまだまだ季節の恵みが隠れています。
春の訪れとともに顔を出す「フキ」や「タラの芽」をはじめ、木々の中にひっそりと姿を現すぷりぷりの「きくらげ」「みずくらげ」、そして夏から秋にかけて爽やかな香りを添えてくれる「ミョウガ」など、採れるものは実にさまざま。
椿畑の境目や庭に果樹を植えている家庭も多く、琵琶、柑橘類などを楽しんでいる人もいます。
都会のスーパーと違い、自然のテンポに合わせるから得られる恵みなのかもしれません。

左:ヨモギ。 右:フキ。
山菜狩りは春の大きな楽しみですが、利島で山菜と付き合う上では大切にしたいルールやマナーがあります。
まず、利島は「富士箱根伊豆国立公園」の区域内に位置しています。そのため、自然環境を守るための法律や地域のルールがしっかり定められています。島のルールを確認して行動することが求められます。
何より、島にある山菜の多くは私有地や椿畑の中に自生しています。そのため、無断で他人の土地に立ち入ったり、山菜を採ったりすることはできません。
また、山菜を採るときは「根こそぎ抜かない」のが鉄則です。
根から抜いてしまったり、新芽をすべて採りつくしてしまえば、次の年に芽を出すことは二度とありません。来年も、その先もずっと自然の恵みを分けてもらうために、食べる分だけにして「残しておく」優しさを持って採取しています。
椿畑を一年中コツコツとお手入れし、大切に山を整えている島の人たち。
山に入り、豊かな山菜を味わうことができるのは、日頃から自然と向き合い、汗を流して椿を守っている人たちの「とっておきの特権」なのかもしれません。
自然の恵みに感謝しながら、島のルールを守り、季節の移ろいを食卓で楽しむ。
忙しくも笑顔があふれる利島には、豊かで温かい島暮らしの原風景が今日もしっかりと息づいています。