2026年4月29日。世間が少しずつ連休ムードになりはじめた頃、利島港の近くにとある行列ができていました。
人々のお目当ては――島で生まれた“新しい海の味”。 会場となっていたのは、利島村漁業協同組合による、水産加工場販売会です。
島で水揚げされた魚を使った加工品や限定メニュー、さらにはここでしか手に入らないオリジナルグッズまで並ぶ販売会。
一体どのような工夫やアイデアが詰まっていたのでしょうか。会場のにぎわいとともに、水産加工場の新たな挑戦をお届けします。

春が旬の食材「ひろめ」を細かく刻む作業
2025年秋、利島村漁業協同組合(以下、利島村漁協)の水産加工場、<UMI TO SHIMA>がオープンしました。
水産加工場の目的は、島の魚を“手軽に”食べられる環境を整えること。
「島にいたら新鮮な魚が食べ放題!」と思われがちですが、スーパーがない利島で売られている魚といえば、実は冷凍品がメイン。
360度海に囲まれた島という環境にありながら、民宿や飲食店を除く島内での供給は十分ではないという課題がありました。
利島村漁協としても、島民に“日常的においしい魚を食べてもらいたい”、そして観光や仕事で訪れた島外の方にも、“もっと手軽に利島の海で獲れた海鮮品を食べてもらいたい”という想いがあったそうです。
そんな希望をかなえるために誕生したのが、水産加工場<UMI TO SHIMA>でした。

港から徒歩3分!水産加工場「UMI TO SHIMA」
新たな水産加工場では、急速冷凍や真空パック機などを整備し、獲れたての魚の鮮度を保てるようになりました。
この度導入した急速冷凍の機械「凍眠」は、通常の冷凍庫のように空気で凍らせるのではなく、液体(アルコール)を使って瞬時に冷凍させていきます。空気よりも液体のほうが熱伝導率が高いため、より短時間で、鮮度を保ったまま冷凍することが可能になりました。
冷凍した食品は「マイナス60度の冷凍庫」で保管され、各家庭でも解凍が可能となっています。
島内での流通がしやすくなることはもちろんですが、この技術によって島外輸送もしやすくなるため、利島村漁協では新たな販売経路の拡大にもつながっています 。

真空パックと急速冷凍の機械
<UMI TO SHIMA>という愛称は、島内から寄せられた37件のアイデアの中から選ばれました。
単なる水産加工場ではなく、この島の漁業と暮らし、人と食をつなぐ拠点として。
この水産加工場が「海」と「島」を繋ぐ場所になりますように、そんなメッセージが込められています。

丁寧に下処理され真空された状態。このまま冷凍庫へ
現在、加工場で魚の下処理や調理を担っているのは、数名の島内スタッフの皆さんです。
調理場に立つのは、長年利島で暮らしてきた主婦の方々。海産物をはじめ、野菜や山菜など、四季折々の島の食材を知り尽くした知恵と経験を生かしながら、加工場のメニュー開発にも取り組んでいます。
ただ「おいしい」だけで終わらせない、島ならではの食文化や家庭の味を大切にしつつ、利島の魅力を感じられる商品づくりに力を注いでいます。
また、利島周辺の海は荒波の影響を受けやすく、天候によっては思うように漁に出られない日も少なくありません。さらに、その年の海の状況によって水揚げされる魚種や漁獲量も大きく変動するため、安定的な供給が難しいという現状があります。
そうした中で、水産加工場で働く方々は「その日獲れたもの」を新鮮なうちに丁寧に下処理をし、冷凍保存することで、島の恵みを無駄なく活用できる体制づくりに取り組んでいます。
獲れたてで旬の食材を、新鮮なうちに加工・保存することは、水揚げの魚種や漁獲量などに関係なく、年間を通して利島の味を届けることにもつながっています。

グリルしたタカベの小骨を丁寧に取り除く作業
さて、冒頭でご紹介した行列についてです。
4月29日祝日、<UMI TO SHIMA>にて販売会が行われました。
今回の目玉メニューは、なんといっても「尾長鯛のべっ甲丼」!
尾長鯛といえば、鮮やかな赤色と上品な味わいが魅力の、超高級魚。全国的にも流通量が少なく、その多くが高級寿司店や料亭へと出回るほど大変希少な魚です。
今回の販売会では、そんな貴重な利島産の尾長鯛を、伊豆諸島ならではの味「べっ甲漬け」に仕上げ、「限定30食」で販売しました。
<UMI TO SHIMA>ができたことで、水揚げから加工、そして販売までが繋がるようになりました。その結果、島で獲れた魚を、島の人たちがより身近に味わえる環境が整ってきたことが、この一杯から伝わります。

利島で獲れた高級魚「尾長鯛」
そしてもう一品、注目を集めた商品が「シャークフライ丼」。
なんと…「サメ」が主役なんです。
漁師の方々のお話によると、本来であればイセエビが獲れるはずだったエビ用の網に、大量にアブラツノザメがかかっていたそうです。
本来であればがっかりする(そしてちょっと恐ろしい…?)ような光景だったことでしょう。しかし、加工場の活用方法を模索していた利島村漁協では、この状況を前向きに捉え、“サメ”をあえて商品として活用する挑戦に踏み切りました。
さらに今回は、島の「はばのり」を麺に練り込んだ新商品「はばのりうどん」も登場。島の食材をつかった幅広い商品づくりにも挑戦しています。
午前11時。開店と同時に、<UMI TO SHIMA>の前には20人近くの行列ができていました。
調理場でも予想を上回る盛況っぷりに、調理や品出しに大忙し。その行列は絶えることなく、終了時刻の12時30分まで続きました。
肝心の味も大変好評。会場付近の特設イートインスペースからは「美味しい!」の声が続々と聞こえてきました。

(左)シャークフライ丼 (右)尾長鯛のべっ甲丼
利島村漁協では、オリジナルグッズも大変充実しています。
販売会場では、利島村漁協オリジナルのロゴマークをあしらったTシャツやタンブラー、マグカップなど、魚をモチーフにしたかわいらしいグッズが並び、多くの来場者の目を引いていました。
これらのグッズは直営限定で販売されており、今回のような販売会やイベントでしか手に入らない“激レアアイテム”とのこと。島内外問わず、特別感のあるラインナップとなっています。
“利島らしさ”を感じられるデザインは、観光で訪れた方へのお土産品としてはもちろん、島の思い出を持ち帰る一品としてもおすすめです。

かわいらしい海産物デザインが大人気
海は、年間を通していつも思い通りになるわけではありません。漁に出られない日もあれば、潮の流れが変わって予想外の魚や海藻が大量に獲れることもあります。
今回私は試食会や仕込み作業に密着させていただきましたが、働くスタッフの方々はそんな“島らしい難しさ”さえも前向きに楽しみながら、新しい魅力へ変えていこうとする姿がとても印象的でした。
サメを思い切って販売の目玉商品にしてみたり、島の方々の知恵を生かして加工品をつくったり、オリジナルグッズを並べたり。多くの工夫があって、今回の販売会の行列につながっているのだなと改めて感じました。
また現場からは、「お客様に楽しんでもらおう」「利島の面白さを島内外へ届けよう」という熱気がひしひしと伝わってきました。
さらに今後は、学校給食での活用や、加工品の島外販売など、新たな活用方法も期待されています。
<UMI TO SHIMA>の挑戦はまだ始まったばかりです。これから利島村漁協からどんな商品やアイデアが飛び出してくるのか、今後の展開を楽しみに待ちたいと思います。
